がん細胞とミトコンドリア
●細胞のアポトーシスに関与するミトコンドリア
実はこのミトコンドリアが、がんの発生と消滅にも重要な働きをしていることがわかってきました。
がん細胞は、遺伝子の異常によって発生します。がん化する細胞の数は、健康な人でも1日数千個もあると言われていますが、このような細胞は通常すぐに排除されるようになっています。細胞は何か問題が生じたときには、それを修復できない場合は消滅するようプログラムされているからです。この自ら消滅する生命現象をアポトーシスと呼んでいます。
アポトーシスにはさまざまな因子が関わっていますが、最終的にはタンパク質を分解する酵素であるカスパーゼが活性化することで、細胞が分解されて消滅していきます。このカスパーゼを活性化させるには、2つのルートがあり、その一つがミトコンドリアを介したルートです。
細胞のDNAが損傷した際に、細胞分裂をストップさせようとする遺伝子が働きます。その時、「分裂をストップさせるぞ!」というシグナルが発せられます。ミトコンドリアはそのシグナルをキャッチして、チトクロームcという物質を放出し、それがさらにほかの物質と結合したりしながらカスパーゼを活性化させ、核を凝縮させたり、細胞を断片化させたりして、異常を起こした細胞を消滅させてしまうのです。そうなると、ミトコンドリア自身も生き残れません。まさに自らをも犠牲にして、全体を救おうとするのです。
しかし、ミトコンドリアの機能が低下すると異常な細胞のアポトーシスを行えず、細胞のがん化につながってしまうのです。
東京キャンサークリニック
ミトコンドリアの分裂がアポトーシス(細胞の自殺)開始を制御する仕組みを解明(分子生命科学系部門 大寺秀典助教)
九州大学 医学部/大学院医学系学府/大学院医学研究院