「声は聞こえるのに、言葉がわからない」のはなぜ? 脳の“言葉のアンテナ”の状態をチェック(2/3)

なぜ放置は危険? 補聴器が「脳のリハビリ機器」と呼ばれる理由と、聴こえのメカニズム

2-1.聴こえのアンテナ:会話のカギを握る「高音域」

私たちの「聞こえ」は、耳と脳が協力して行っています。

・耳 … 空気の振動(音)を拾って、電気信号に変えるアンテナ・マイクの役割
・脳 … 送られてきた信号を分析して、「言葉」「音楽」「物音」として理解する翻訳機の役割

特に会話の中で重要なのは、「高い音(高音域)」です。

・低い音(母音)…「あ・う・お」など。声のボリュームや、男性の声などを支える部分。
・高い音(子音)…「サ行」「タ行」「ハ行」など。言葉をはっきり区別するための、大事な“輪郭”の部分。女性や子どもの高めの声も、こちらのイメージです。

加齢による難聴では、この「高音域」をキャッチするアンテナが先に傷み始めます。その結果、

・音量としては聞こえているのに
・「さとう」が「かとう」に聞こえる
・「紙」と「髪」の区別がつきにくい

といった、「言葉の情報(子音)が抜け落ちる」状態になりやすくなります。

テレビの音を大きくすれば「うるささ」は増しますが、肝心の言葉の輪郭がハッキリしないため、「内容が頭に入ってこない」ということが起きてしまうのです。



2-2.脳はサボり始める? なぜ「放置」が一番危険なのか

聞こえにくい状態を「年のせいだから」と我慢し続けることは、実はとても危険です。

理由は、「使わない機能は、脳がサボり始めてしまう」からです。

長い間、高い音の情報(子音)が十分に入ってこない状態が続くと、脳は

「どうせ入ってこない情報だから、細かく解析しなくていいや」

と判断し、言葉の聞き分けをする機能をだんだん使わなくなっていきます。
このように、使われない機能が弱っていくことを「廃用性萎縮(はいようせいいしゅく)」と呼びます。

廃用性萎縮が進むと、

・以前は分かっていた言葉を、思い出せなくなる
・音は聞こえているのに、意味として理解するのに時間がかかる
・あとから補聴器をつけても、脳がその情報をうまく活かせない

といった状態になりやすくなります。
つまり、「聞こえにくさ」を長く放置すればするほど、後から補聴器でリハビリするのが難しくなってしまうのです。



2-3.補聴器は「音量装置」ではなく「脳のリハビリ機器」

補聴器というと、「音を大きくする道具」というイメージが強いかもしれません。
しかし、本来の役割はそれだけではありません。

・弱ってしまった高音のアンテナの代わりに、
・足りない言葉の情報(子音など)を補い、
・脳に「正しい形の音情報」を届け続ける

これによって、脳がもう一度、「言葉を聞き分け、理解する訓練」をしていくための機器。
それが、補聴器の本当の姿です。

言い換えれば、補聴器は「脳のリハビリ機器」です。

だからこそ、できるだけ早い段階から、「正しい音の情報」を脳に送り続けてあげることが大切になります。

次のページでは、実際に当店で行っている「聴能測定(言葉の聞き取りテスト)」の流れについて、もう少し具体的にご紹介します。


[次へ進む]

関連記事

「声は聞こえるのに、言葉がわからない」のはなぜ? 脳の“言葉のアンテナ”の状態をチェック(1/3)
「聞こえる」と「分かる」は違う? 聴力と聴能の壁


「声は聞こえるのに、言葉がわからない」のはなぜ? 脳の“言葉のアンテナ”の状態をチェック(3/3)
補聴器を買う前に!「あなたの聞き取り力」を客観的に知るための「聴能測定」の流れに続く

この記事を書いた人

lr-hearing