※このページは、「その1」の続きです。
その1では、
- 「聞こえる」と「わかる」は別の力であること
- 聞こえにくさを放置すると、脳の「言葉のアンテナ」がさびていくこと
- 足のケガのように、「使わない期間」が長いほど戻りにくくなること
- WHO が「40dBくらいからはきちんと対策を」としていること
などをお話ししました。
ここからは、
- 難聴を放置すると人生にどんな影響が出るのか
- 認知症との関係や、その原因
- 当店でお手伝いできること
についてお伝えします。

⑤. 放置が長くなると、「人生」への影響も大きくなる
難聴を放置する影響は、「聞こえの問題」だけにとどまりません。
次のような形で、人生全体にも影響してきます。
1)家族との会話が減る
- 聞き返しが増えることで、お互いにイライラする
- 「どうせ聞こえないから」と、家族がだんだん話しかけなくなる
- 本人も、「聞き返すのが悪い気がして」会話を避けるようになる
一番身近な人との会話が減ることは、想像以上に寂しいものです。
2)友人とのつきあいが減る
- 集まりに行っても、会話についていけず、ひとりで黙って座っている時間が増える
- 「聞き取れないのがつらいから」と、会合やサークルを休みがちになる
- 結果として、人との関わりが減っていく
外に出る機会が減ると、気持ちもふさぎ込みがちになります。
3)気持ちが内向きになる
- 「何度も聞き返して迷惑をかけているのでは」と、自信を失う
- 「もう年だから仕方ない」と、あきらめやすくなる
- 新しいことに挑戦する意欲が落ちる
こうした変化が積み重なると、「生活の楽しみ」そのものが少しずつ削られていきます。
最近では、「難聴があると認知症のリスクが上がる」という研究も増えてきました。
人と話す機会が減り、脳への刺激が減ることが、その一因と考えられています。
大事なのは、「難聴=すぐ認知症になる」ということではなく、
- 聞こえにくさを放置して、人との関わりや会話が減ってしまう
- その状態が、脳や心にとって良くない影響をじわじわ与える
という流れを、できるだけ早い段階で止めることです。

⑥. 「リハビリに期限がある」と考えておく
ここまで読むと、「じゃあ、いつまでなら間に合うの?」という疑問が出てくるかもしれません。
もちろん、何歳であっても、やらないよりは「今から」対策をしたほうが良いです。
80代で補聴器を始めて、「もっと早く知りたかった」と笑顔になられる方もたくさんいらっしゃいます。
そのうえで、あえて現実的なお話をすると、
- 耳からの音がかなり減ってから
- 何年もそのまま放置してしまったあと
だと、
- 脳が「言葉を聞く仕事」を手放してしまっている
- 新しい機械(補聴器)の操作を覚えること自体が負担になる(装用が難しくなる)
といった理由から、「ゼロからのリハビリ」がとても大変になります。
足の例えに戻すと、
- ケガをして1か月固定したあとに動かす
- 数年まったく動かさなかったあとに動かす
この差をイメージしていただくと、わかりやすいかもしれません。
ですから、「聞こえなくなったら考える」のではなく、
「少し不便さを感じ始めた段階で、一度チェックしておく(できれば健康診断と同じように定期的に)」
くらいのイメージを持っていただくのが、いちばんおすすめです。

⑦. 難聴と認知症リスクについての研究
難聴と認知症の関連性は、世界で最も精力的に研究されているテーマのひとつです。
アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究では、
軽度の難聴がある人は、正常な聴力の人に比べて認知症を発症するリスクが約2倍になり、重度の難聴では約5倍になるというデータが示されています。
また、国際的に最も影響力のある医学誌の一つであるランセット(The Lancet)が2020年に発表した報告書では、
認知症のリスク要因として特定された12項目の中で、「難聴」は中年期の最大の要因であり、リスクの約8%を占める可能性があると指摘されています。
世界的にも、2024年にアップデートされた権威ある医学報告(ランセット国際委員会報告)の中で、難聴は引き続き、予防によって回避可能な認知症の最大のリスク要因の一つであることが強調されています。
日本の最新研究でも、同じ傾向が裏付けられています。
また、日本の慶應義塾大学の研究グループは2023年に、補聴器の装用経験がない人について、平均聴力が38.75dBを超えると認知症リスクを持つ確率が高いという具体的な数値を明らかにしました。これは、私たちが先に述べたWHOの推奨ライン(40dB)と近いレベルであり、「少し不便を感じ始めたら対策を」という考え方を強く裏付けるものです。
(日本と世界では、平均聴力の計算方法が違う場合があります。詳しくはおたずねください。)
⑧. 難聴が認知機能に影響する「3つの原因」
難聴を放置すると、認知機能が低下しやすくなる理由として、主に次の3つが考えられています。
1)脳のストレス(認知負荷の増大)
聞き取りにくい状態が続くと、会話のたびに脳がフル回転します。
- 「今、なんと言ったのか」
- 「たぶん、こう言ったのだろう」
- 「前後の流れからすると、きっとこういう意味だろう」
と、常に頭をフルに使い続けることになります。
本来であれば、
- 記憶
- 判断
- 新しいことを学ぶ力
などに使うはずの「脳のエネルギー」が、「聞き取り」にたくさん奪われてしまう状態です。
この状態が長く続くことで、慢性的な「脳疲労」がたまり、結果として認知機能全体の低下につながると考えられています。
2)脳の機能低下(廃用性萎縮)
脳は、「使われない機能」を少しずつ縮小していく性質があります。
これを「廃用性萎縮」と言います。
- 耳から入る音や言葉の刺激が減る
- 言葉の聞き取りに使われていた脳の領域の活動が低下する
- その部分のネットワークが弱くなったり、ほかの機能に転用されたりする
こうした変化が重なることで、「音を言葉として処理する力」が落ちていくと考えられています。
3)社会的孤立
聞こえにくさがあると、
- 会話がわからないのがつらくて、人と会うのを避ける
- 集まりや趣味の場から、少しずつ足が遠のく
- 家のなかでも、会話が減る
といったことが起こりやすくなります。
人と話すこと、笑うこと、意見を交わすことは、それ自体がとても強い「脳のトレーニング」です。
その機会が減ることで、脳への刺激が少なくなり、認知機能の低下につながりやすいと考えられています。
世界的に見ても、難聴は「治療できる認知症のリスク要因」として認識されており、「聞こえの対策」は「認知機能の予防」に繋がるという考え方が主流になっています。


当店では、補聴器を売る前に、まずあなたの「現在の聞こえの力(脳の体力)」をしっかりと測定します
- 測定とご相談は無料です。
- 測定したからといって、必ず補聴器を買わなければならないわけではありません。
- もし補聴器が必要ない状態であれば、「今はまだ必要ありません」と正直にお伝えします。
また、当店では、ただ「どのくらい小さな音まで聞こえるか」というだけでなく、
- 言葉がどれくらいはっきり聞き分けられているか(語音明瞭度・聴能)
といった「聞こえ方の中身」も一緒にチェックします。
同じ「平均○dB」という数字でも、
- 音は聞こえているのに、言葉としてはっきり入っていない方
- 日常会話の中で、言葉が聞き取りにくくなっている方
では、今後の対策や補聴器の合わせ方が変わってくるからです。
まずは、ご自分の耳と脳が今どんな状態なのか、知ることから始めてみませんか?
お散歩のついでに、お茶を飲みに行くような感覚で、お気軽にお立ち寄りください。
まとめ:未来の自分のために、「今」できることを
難聴を放置することは、「今の自分」だけでなく、「これから先の自分」の選択肢を狭めてしまう可能性があります。
- 脳が言葉を聞き取る力を保てる時間には、どうしても限りがある
- 家族や友人との会話の時間は、あとからまとめて取り戻すことはできない
- 「もっと早く来ればよかった」という声はあっても、「早く来すぎた」という声はほとんどない
これが、現場で多くの方と接してきて、私が実感している正直なところです。
「まだ聞こえているから大丈夫」ではなく、
「まだ聞こえている“今だからこそ”できることがある」
と考えていただけたらうれしいです。
まだその1を読んでいない方は、先にこちらをご覧ください。
「まだ聞こえているから大丈夫?その1|耳と脳に起きていることと早めに動くべき理由」